「Half Dome 登頂日記 1」

 

1999年6月27日


いよいよ計画を実行に移す日がやってきた。(と言っても昨日思いついた計画だ)

CurryVillageより7:40発のシャトルバスに乗り、7:52ハッピーアイルを出発。
15人ほどがいっせいに川沿いに進んで行く。  
天気は快晴、冷たい朝の空気が身を引き絞めるよう。

激流のマーセドリバー沿いをすすむミストトレイルは段々細くそしてきつい坂に
なり、いかにもトレイルという感じになってくる。
太陽はまだ山の向こう側、だが歩くにつれ汗ばんできた。ここで長袖のフリース
を脱ぎTシャツ一枚になる。

一時間ほど歩いた9:00ちょっと過ぎ、バーナルフォールが見える橋に到着。轟
々と音をたてて流れ落ちる滝がちょうど岩山から顔を出した朝日に照らされきれ
いに輝いている。雨も降っていないし近くに残雪があるわけでもないのにすごい
水量。ここで2,3カット写真をとった後、すぐに出発。
何と行っても今日は長い一日になるのだ。

そこからは川沿いに緩やかな登り。しかし滝壷に近づくにつれトレイルもいっ
きに急になりやがて階段になる。

「ここがガイドブックで見たミストトレイルのメイン会場かぁ。」

大量の水しぶきが降り注ぐようになる、が体中ずぶ濡れになるほどではなくいい
クールダウンだ。すぶ濡れの頭も天気がいいのですぐに乾くだろう(気温は22度
くらい)。
そしてミストを浴びながら30分ほどでヴァーナルフォール上部のビューポイント
へ到着。

「フッ〜!さすがに500段の階段はきつい」(しかしこれはほんの序の口でした)

 10:15ごろバーナルフォール上部から少し上流の地点で給水&ひと休み。川の
水で足の筋肉を冷やしながらマッサージ。そして半分になった1リットルボトル
を満タンに。これを書いている現在でもおなかが痛くならないので、川の水はそ
のまま飲んでも大丈夫だろう。

少し進むとやがてここから先はジョンミュアトレイルとミストトレイルの分岐点
(看板有り)。どちらからでも行くことができるが地図で見る限りジョンミュア
トレイルのほうがミストトレイルより1.5倍ほど長い。もちろんミストトレイル
のほうが急だろうがまぁわざわざ長いほうを選ぶこともないだろうとミストトレ
イルを選択。

「フゥフゥ,ハァハァ」

ネバダフォールを見ることはできないが右側に濠音は聞こえる。滝に近づくにつ
れてトレイルは急な岩壁に張りつくようなジグザグの階段状になる。

「よいしょ、よいしょ、一歩一歩ゆっくり、一定のリズムが大切だぞ。」

自分にいいきかせながら、しかしデイパックの荷物が・・・。
足の筋肉もピクピクしだした。

「あ〜情けない。そういえば近ごろ運動らしい運動してなかったもんなぁ。自転
車で買いもん行くくらいではあかんなぁ〜。」
誰もいないトレイルで一人泣きごと。

ときおり大きいバックパックを背負った、リトル寄席観てバレー(この字いいな
ぁ)から帰ってくる人達とすれちがう。

「はぁぃ」
こっちの声も段々元気がなくなってくる。

「しかしだぁれもおらんなぁ〜?おれだけか、ハーフドームまで行くの?」
ちょっと心細くもなってきた。そして早くもおなかが空いてきたのでパワーバ
ーをかじりながらのぼる。今日持ってきたのはこのパワーバーのほかに、細なが
〜いサラミ4本パック、ベーグルwithチーズ2ヶ、飛行機の中で出るような小さい
ポテトチップス一袋。ちょっと少なめで不安。

そんなとき、後ろで人の足音。一人ロングヘアーの白人青年が上ってくる。

「えええ!うっそぉ〜!」

彼は町中の普通の階段を上るように、スタスタ。こっちは、よいっしょ・・・よ
いっしょ・・・なのに。みるみる近づいてくる。

「ひぇ〜〜〜!はやい!ここは駅の階段ちゃうっちゅぅねん」とつっこむ井上。

彼「ハァ〜イ」

自分「はぁい。ゆーあーそーふぁーすと」

彼「フフ」

ふふやないで。いったいどないなってんの?みるみる遠ざかっていった。なんじ
ゃあれ。

つづく・・・


 

「Half Dome 登頂日記 2」



ネバダフォールを横目で見ながらふらふらになってようやく階段を上りきり、少
し行くとログでできたトイレ。そこで女の子5人くらいが休憩している。久しぶ
りに見る大人数だ。

 そこを過ぎるとようやくフラットな場所に。なるほど、ここが氷河に侵食され
る前の地平線か。右手にネバダフォールに落ちる寸前の川がとうとうとそして静
かに流れる。下流でのあのダイナミックな流れがうそのよう。そしてここまでの
上りがうそのような平らな場所だ。
平らな場所を川の水によって削られそして氷河期に氷によって階段状に侵食され
二つの滝を作った、この前のNHKの番組を思い出しながらしばし自然の力に感心。
ふと左を見ると、そびえたつリバティーキャップの後ろ側が眼前に。このあたり
のトレイルは、砂浜を歩いているようで歩きにくい(川幅が広かったころ上流か
ら運ばれた砂だろうか)。砂にエネルギーを吸収されるよう。
少し歩いて11:20ここで休憩。階段を上がる筋肉とは違った筋肉を使っているの
がわかる。今度はももの後ろがピクピクきた。しかしそう長く休んで入られない。
帰りのバスは最終20:30(from Happy Isles),ガイドブックには往復に10〜14
時間と書いてあったから1時ごろには頂上につきたい。

 しばらくすると今度は、右に行くとリトルヨセミテバレーのキャンプグラウン
ド、左に行くとハーフドームという看板。
フラットな場所でやれやれと思ったのも束の間、ここからがなが〜〜〜〜い登り
の始まりだった。地図では、この辺が丁度半分、折り返し地点のはず。北西にハ
ーフドームも見えてきた。今までのようなすごく急な登りではないが、行っても
行っても登り、休むところもなくもう荷物を放り出したくなった。

よいしょ。・・・・・・よいしょ。・・・・・・・・よいしょ。

いっそうペースが落ち、もうほとんど止まっているかのような超スローペース。
頭はボーッとしてくるし足は鉛のように重くなってきた。このハーフドーム裏に
さしかかったあたりから前を行く人や後ろから追いぬいてゆく人と会うようにな
る。追いぬいて行く人達は疲れてはいそうだけどもまだ元気のよう。

「それにしてもこんなに体力なかったかなぁ、おれ?」

自分でも信じれらないくらい疲れてくる。やがて後ろから馬に乗った10人くらい
のツアーが追い越して行く。

「はいはい、あたしゃ〜馬糞を踏みながらゆっくり行かしてもらいますよ。馬に
 乗った連中にこの苦しみはわかるまい。糞っ!」


 地図で見るとハーフドームのふもと以前に2ヶ所ほどの急な地点がある。もう
休憩する間隔が30分から15分と短くなり、

「バスに間に会わないと行けないからなぁ。」とか
「どうせ引き返すんなら早いうちに」とか
「ここまでやれば十分じゃないか。よくやった。」
などなど頭の中では引き返すいいわけを探している。
他の人とも抜きつ抜かれつ、交互に休憩しあっているようなもの。

一歩・・・・・・・・・・・一歩・・・・・・・・・・・・一歩。


 コンパスで見るとハーフドームが真西に見えるようになってきた。すると一つ
の看板。右に行くと、Cloud'sRest&TenayaLake。

「へーこんな所からTenayaLakeに行けるんかぁ。」

オルムステッドポイントからハーフドームを見るととてもあんな所から歩いて来
ようなどとは思えない距離。しかももうすでにバテバテなのに。

15分くらいすると今度は、ハーフドームまで2マイルの看板だ。
地図にはもうすぐ行くと泉、ボトルの水ももうほとんどないので給水せねば。看
板から15分ほど行った所で木の陰で一人の男性がしゃがんでいる。

「Water?」

「Yeah」

この人がいなかったら見過ごしてしまうようなトレイルから見えない木の陰に小
さな水たまり(その下10メートル位トレイルが水で濡れているのが目印)。よ〜
く見ると、水たまりの底の小さな穴から水が湧き出ている。しかし水たまりが浅
いのでボトルをいっぱいにすることはできず、半分くらい入れるのがやっとでし
かも砂金のような粒も混じっている。でもないよりずっとまし、汚いだのへった
くれだの言ってられない。そんな余裕はとうに置いてきたつぅ〜もんだ。10分ほ
ど休んで、
「よ〜っこらせぃ〜」と立ちあがって出発。もういやいや。

「あ〜つかれた〜。なんでこんなとこ来ちゃったんだろうなぁ。もうだめかもし
れないなぁ・・・」トボトボ


 高度が上がるにつれしだいに、木がまばらになって足もとには岩盤が露出して
くるようになる。目の前にそびえたつハーフドームにはほとんど垂直に見え
る岩をケーブルに捉まって登る人たちが小さく見える。

登るにつれ斜度が緩くなり、12:00ちょっとすぎ、ようやくガイドブックで読ん
だ急な階段にきた。

「うわ〜っこれ登んのぉ〜。もう勘弁してください,神様仏様。」

そびえ立つ岩山にまたもや急な階段。登る前に15分ほど休憩し

「しょ〜がない、行くかぁ」
もう半泣き。

よいしょ・・・・・よいしょ・・・・・・・よいしょ・・・・・・・・

しかし階段ですれ違うもう登ってきた人の中には、小学生くらいの子供もいる。
情けないのと同時にこれをはげみに頑張ってみる。

 12:40、階段を登りきり、ようやくさっきから見えていたケーブルの地点だ。
縦約1.5メートル幅約80センチの間隔で鉄のポールが2列頂上から下まで岩に直接
立てられ、そこをはしごのようにケーブルがかかっている。その手すりのように
なったケーブルを手でつかみながらレスキュー隊のように登って行くのだ。しか
し幅80センチしかないので登りと下りですれ違うのも容易ではなく人がケーブル
にぶら下がるように渋滞している。

「よっしゃ、いくか!」

最後の力をふり絞ってケーブルにしがみつく。
「あ〜これが最後の登りだぁ」という気持ちの前に足の疲れや高さに対する恐怖
感も消え去る。思ったより長い、しかし降りてくる人をやりすごすため途中のポ
ールに足をひっかけて休むことができる(口実)。

徐々斜度が緩くなり、

「はぁっ、やっとついたぁ〜!」

1:10頂上にとうちゃ〜く!

頂上にはもうすでに50人ほどいるだろうか。空には雲一つなく、バレーから吹き
あがってきた上昇気流がハーフドームの頂上をかすめてゆく。

てっぺんの断面は野球ができそうなハート型で、長いところは100メートル近く
ある。真ん中が窪んではいるがほぼフラット。頂上だけ見ているとここがあのハ
ーフドームのてっぺんだとは想像できないくらいの広くそして平和なところだ。
しかし下を覗くとここが標高8842フィート(2695メートル)、はるか下に見える
バレーまでは1485メートルもあることを思い出させてくれる。
股間がむずがゆい(なんででしょうね,あれ?)。

満足感をかみしめながら、岩に座って持ってきたベーグル2つを食べる。頂上に
いる人の中にはなんと70歳はこえるであろう老夫婦(!)もいるではないか。も
う感服&脱帽。
三脚にペンタックス67をつけ、とお〜〜くに見える雪山をバックに頂上の岩を写
真におさめ、しばし昼寝。

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「Half Dome 登頂日記 3」


15分ほど寝たであろうか、軽く準備体操をして1:30降りることにする。ケーブル
での下山は思っていたほど恐怖感はない。やはり渋滞しているのでポールの部分
に足を乗せ、先に進むのを途中で待たされる。下を見渡す余裕が出来てちょうど
いい。やがて10分ほどで降りきることができた。


しかし登りの辛さに比べて下りのなんと楽なことか。

結局帰りも行きと同じトレイルをとおり、途中3回ほど写真を撮りがてら休憩。
18:30無事ハッピーアイルのバス停に帰還。

もうぐったり。
翌日もぐったり。


ハッピーアイルからハーフドーム頂上までの往復距離:16.5マイル(26.4キロ)
長いのひとこと。

かかった時間:約10時間30分。帰りちょっと飛ばしたのでこの時間ですが、成人
で13時間くらいみておいたほうがいいでしょう。

トレイル:ミストトレイル→ハーフドームトレイル 帰りはその逆。帰りはその
まま下るとネバダフォールの落ち口で休憩場所につきますがそのまま下りようと
するとジョンミュアトレイルで下りることになります。ミストトレイルに入るに
は戻る必要があります。しかしいい休憩になるので遠回りでもネバダフォールま
できて休憩し、またちょっと戻ってミストトレイル(5人の女の子がトイレ休憩
していた所)でくだったほうが一番早いと思います。あの急な階段(すごい白人
青年が追いぬいていったところ)は帰りはそれほど負担にならなかったです。階
段なのでつま先にそれほど負担がかからないからでしょう。
あとは、階段を下りきったところでネバダフォールにかかる虹をみることを忘れ
ずに帰るだけ。

バス:最終は20:30でした。遅くとも朝9時には出発したいところです。

6月27日で、日の出は5:50ごろ、日の入りは20:30ごろ。夏至に近いこともあっ
てどちらを見るにもリトルヨセミテバレーでキャンプが必要。でも熊が出るかも。

水:私は1リットルのボトルで持っていきましたが、途中で給水できるとはいえ、
真夏には1.5〜2リットルほどのボトルを持っていくと安心でしょう。事前にハー
フドームに登ることを計画しているんなら日本でエネルゲンのような粉のスポー
ツ飲料を持っていくことをお薦めします。途中で水を飲んでもすぐに吸収されな
いため休憩後もやっぱりだるく、私は塩辛い汗が出て寒気まで感じました(脱水
症状の前)。

食料:私の失敗はここにあるようです(反省)。朝ご飯にベーグル一個食べただ
けでした。朝スタミナのつくものを食べてなお2食〜3食分持参しましょう。2,
3日前から甘いものをたくさん食べてグリコーゲンを貯えるとなおよいか。

靴:トレッキングシューズでOK。普通のズック(古ぅ)は上のほうで岩に砂が浮
いたところでよく滑りました。

カメラ:28mmくらいの広角レンズがついたコンパクトカメラでOKでしょう。光は
フラットです。

では頑張ってください。
長々とおつきあいありがとうございました。


「いい思い出だけど もぅ いや!」

 

おしまい
最後までおつきあいありがとうございました。

 

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